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京都地方裁判所 昭和60年(わ)1007号 判決 1985年12月12日

本籍

京都市伏見区醐醍東合場町二四番地の三

住居

右同所

煙草小売業兼飲食店経営

村井幸男

昭和五年四月一六日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官關本倫教出席のうえ審理をし、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一〇月及び罰金一五〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二万五〇〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、自己の所有する京都府伏見区醍醐合場町二八番ほか一筆の田を昭和五七年一月一一日代金一億八二四九万円で売却する契約を締結して同月一六日右代金を受け取り(うち二一九四万五〇〇〇円は代物弁済)、昭和五九年七月二七日及び同年八月二日右土地の各所有権移転登記をしたことから、右売却による譲渡益を昭和五九年分の譲渡所得として申告するに際し、報酬を得て虚偽の申告書を作成したうえ申告手続を代行していた全日本同和会京都府・市連合会を利用してその所得税を免れようと企て、同連合会辰己支部事務局長村井信秀及び同人を通じて同連合会事務局長長谷部純夫、同連合会事務局次長渡守秀治、同連合会会長鈴木元動丸らと順次共謀のうえ、右譲渡に係る自己の実際の昭和五九年分分離課税の長期譲渡所得税金額は一億七一〇七万四三五〇円、総合課税の所得(事業所得)金額は損失四九五万一七二八円で、これに対する所得金額は四六六八万五六〇〇円であるにもかかわらず、昭和六〇年三月一八日、同市伏見区鑓屋町所在の所轄伏見税務署において、同署長に対し、そのような事実はないのに、株式会社ワールドが有限会社同和産業から借入れた二億円の債務について自己が連帯保証人となっていたことから、右連帯保証債務を履行するために右不動産を譲渡し、その譲渡収入で昭和五七年四月三〇日、有限会社同和産業に一億七五〇〇万円を弁済したものの、株式会社ワールドに対する求償不能により同額の損害を被った旨仮装するなどしたうえ、自己の昭和五九年分分離課税の長期譲渡所得金額は五八万二三五〇円、総合課税の所得金額は〇円で、これに対する所得税額はない旨の内容虚偽の所得確定申告を提出し、もって、不正の行為により右の正規の所得税額四六六八万五六〇〇円全額を免れたものである。

(証拠の標目)

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官(昭和六〇年八月二三日付、同月二八日付、同月二九日付、同月三〇日付、同年九月二日付、同月三日付、同月七日付)に対する各供述調書

一  村井信秀(五通、各謄本)、長谷部純夫(謄本)、鈴木元動丸(謄本)、内藤光義(謄本)、村井ひさみ、安東謙(謄本)、須田良藏及び村井正美の検察官に対する各供述調書

一  伏見税務署長作成の証明書

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書

一  大蔵事務官作成の報告書謄本

(法令の適用)

罰条 刑法六〇条、所得税法二三八条一項(懲役と罰金を併科)、情状により罰金額につき同条二項

宣言刑 懲役一〇月及び罰金一五〇〇万円

労役場留置 罰金刑につき刑法一八条(金二万五〇〇〇円を一日に換算した期間)

執行猶予 懲役刑につき刑法二五条一項(三年間)

(量刑の事情)

本件は、被告人が自己の所得税の申告に際し、脱税コンサルタントである全日本同和会京都府・市連合会を利用して四六六八万円余の所得税全額を脱税したという事案であって、被告人が納税の公平を侵し、誠実な納税者の納税意欲を害した程度は著しいので、被告人の刑責は重いというべきである。しかも被告人は、全日本同和会京都府・市連合会の者らに対し、昭和五六年に一億八五一三万円で売却した土地に関する譲渡所得についての所得税もあわせて脱税する意図で申告書の作成等を依頼していたところ、手違いからこれが申告から漏れたため、この分の脱税に対する起訴を免れているもので、被告人が本来意図していた脱税額は起訴に係る額の約二倍にも及ぶものであるうえ、被告人は一応反省の態度を示しているものの、同和会に騙されたと述べるなどなお脱税に対する真摯な悔悟の様子は認め難いので、犯情もよくないといわざるをえない。

本件には、全日本同和会京都府・市連合会の同種手口による脱税が相当期間にわたり繰り返されていたのに、税務当局がこれに毅然とした対応を欠いたため誘発されたとの一面のあることは否定できないけれども、被告人自身も、税務当局に対し特別取扱いを要求して脱税目的の申告書作成や申告手続の代行を利権化していた全日本同和会京都府・市連合会のいわば身内として、同種事案の脱税依頼者より極く低率の報酬で脱税を依頼していたものであるので、税務当局の右のような対応を強く批難しうべき資格はなく、これを被告人に特に有利な事情とすることもできない。

ただ、被告人にはこれまで前科のないこと、正規税額をすでに納付ずみであること、今後多額の重加算税も納付しなければならないことなどをも考慮し、懲役刑については刑の執行を猶予することとした。

よって、主文のとおり判決する。

昭和六〇年一二月一六日

(裁判官 森岡安廣)

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